この本は、じっくり読みたい。言葉の一つ一つまで、ゆっくりと味わいたい。
なぜなら、この本を書いたのが彼だからだ。
本著「ぼくとからす」より
この本について、私はまさにこの気持ちで読みました。
なぜなら、この本を書いたのがアザラシさん(月山蛍さん)だから。
SNSでいつもとてもお世話になっているアザラシさん。私にとって、SNSをただの仮想空間ではなく、生身の人と人をつなぐものなんだと感じさせてくれた、大切な人です。
アザラシさんは書評ブログ「アザラシの本棚」を運営されている人で、本を読むだけでなくご自身で物語を書かれており、今回の本はそのアザラシさん(本書では月山蛍の名義)の書かれた物語でした。
短編集として発行された「かなたのぼくから」は、6つの短編から成る「かなたのぼくから」の他に、さらに6つの物語があります。
「かなたのぼくから」
「ぼくといぬ」
「ぼくとくま」
「ぼくとからす」
「ぼくとひつじ」
「ぼくとみつばち」
「ぼくとあざらし」
検索男
星占い女
人魚の父
マカロン・ディ
君が求める物語 ”アポローンの眼球”
君に捧げる物語 ”カサンドラの灯火”
「恋愛や青春、家族を題材とした小説を読む中で自分自身でも物語を書きたいと思うようになった」と著者紹介欄にあるように、この「かなたのぼくから」も、全体を通して「恋愛、青春、家族」というテーマが根底に流れているように感じました。
表現豊かに綴られたそれぞれの物語は、とても優しく私の胸に響きました。
「かなたのぼくから」
研究所で天文学者として働く「ぼく」の視点で描かれる、6つのショートストーリーから構成された連作です。過去、現在と、時間を行き来しながら「ぼく」と関わりあう人たちとの人間模様が描かれています。ひとつひとつの物語がつながりあい、最終章の「ぼくとあざらし」で一つにまとまる感じはジグソーパズルがピタッと合わさってひとつの大きな絵になるのを見たような気がしました。そして読み終えた後には、夜が開ける前の白みかけた空を見ているような、凛として心地よい、静かな感動がありました。
そして6つの短編
それぞれに表題作とは違った感動を与えてくれる作品でした。
「検索男」から「星占い女」へと続く流れが私はとても好きです。最初に「ええ??」となり、戸惑った後に「そうだったのか!」と気付かされた時、「気づきました?そうだったんですよ」と著者がいたずらっぽく笑っているような気がしました。読み終えた時のなんとも言えぬ満たされた感じがとても気持ちよかったです。
人魚の父、マカロン・ディ、そして君が求める物語、君へ捧げる物語にも、様々な人間の愛情が表現されていたと感じました。特に、2章立てで構成された「君が求める物語」と「君に捧げる物語」に描かれている愛情には、力を振り絞ってギリギリのところで繋がり合うような相手への想い、胸が締め付けられるような切なさがありました。この感情を上手に言葉で伝えることができないのが残念なのですが、心で思い切り感じて楽しむことができる、素晴らしい作品でした。
思い切り小説の世界に浸りながら、安心してアザラシさんの世界に酔わせていただきました。読み終えた後には、「ふーっ」と満足のため息を漏らしてから改めて表紙を眺め、そしてやっぱりこう思いました。
この本はじっくり読みたい。言葉の一つ一つまで、ゆっくりと味わいたい。
本が好きな全ての方におすすめしたい、最高の一冊でした。
以上です。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。
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