ベトナムでは離職率の相場が20%と言われています。
経営者、管理者であれば誰でも一度は自社の社員から退職届を出された経験があると思います。社員から退職届を出された時の悲しい気持ちは、何年、何度経験を重ねても、慣れるものでは無いですね。特に、高い評価をしている社員や、よく頑張ってくれる社員であったりすると、やっぱりどうしても気持ちが沈んでしまいます。
そして、多くの経営者は退職届を受け取った後、次にこう考えるのでは無いでしょうか。
「なんとか引き止めたい!考え直して、残って欲しい!」と。
私自身、これまで幾度となくこの経験を繰り返してきました。
話をする中で考え直し、残って仕事を継続して頑張ってくれる社員もいれば、やはり会社を去っていった社員もいます。ここでは、これらの経験から得たことについて書きたいと思います。
退職届を出してきた社員を引きとどめる方法について
基本的には、本当に辞めたいと思っている人を引き止めても、お互い良いことは無い、というのが私の基本スタンスです。
いきなり身も蓋もない話ですみません。
しかし、これは本当です。心から辞めたがっている社員を引き止めて、仮に一時的に会社に残ったとしても、私の経験上、そういう人はやっぱり後になって再び退職届を出してくるものです。
そして、お願いして残ってもらったり、無理やり給与を引き上げて残ってもらったとしても、やっぱりそれは長くは続かず、近い将来、やはり何らかの形で歪んだ感情となって吹き出してしまいます。
悪いケースでは、社員から「辞めたいと言っているのに、辞めさせてくれない」というネガティブな気持ちが高まることにつながり、余計に悪い方向に発展する可能性も出てきてしまいます。こうなると、お互いが悲しくなるばかりで、誰も幸せになりません。
なので、本当の本当に辞めたいと思っている社員には、辞めてもらう方が良いのです。
ここで重要なのは、「この社員は、本当の本当に辞めたいと思っているのか?」というところをしっかり見定めるという点です。
社員が会社を去ろうとする時、そこには様々な理由や想いがあり、本人も感情の整理がついていなかったり、視野狭窄に陥って客観的な視点を持てていないままに退職届を出してくるケースも、意外と多くあります。
そんな時には、じっくりと相手の話を聞いて、「この子は、どうして辞めたいと思ったのだろう」と相手の気持ちにしっかりと寄り添ってあげることが大切です。冷静に相手の話を聞くと、本当に辞めたがっているのか、それとも、本当は辞めたい訳ではなく残って仕事を続けたいのだけれど、そうしたくても出来ない(と本人が思っている)のかが段々と見えてきます。
本当に辞めたいと思っているときは、相手の気持ちも完全に固まっているので、あまり多くを話すことは無いケースが多いです。そんな場合は、こちらもそれを悟って、気持ちよく見送ってあげるのがベストです。
本当は辞めたく無いけど、もうやめるしかない、と思っている場合、話の展開次第では残ってくれる可能性があります。
引き止めた方が良い、と判断するための条件
私の場合、引き止めるのは次の条件が揃った時です。
辞めたいと言ってきた人が、どうしても残って今後もまだ一緒に仕事をしたい、と心から思う相手であること
辞めたい理由や辞めた後にしようとしていることを聞いて、心から「残ってここで仕事した方が、客観的かつ長期的な目で見て本人にとってプラスである」と確信できること
特に二つ目が重要です。なぜかというと、その確信がなければ「For You」の気持ちを全力でぶつけることができないからです。
一つ目の内容も相手に自分自身の気持ちをぶつける時の原動力となる感情なので重要ではあるのですが、これだけだと「For You」の気持ちがありません。「For You」の対義語は「For me」です。
「For Me」の気持ちで引き止めてもそれは必ず見透かされ、相手の心には響きません。「For You」の気持ちがあれば、今の会社で残る方がなぜ貴方にとって良いのかを、情熱を持って伝えることができ、相手の心に響く可能性が高まります。
社員はどんな時に退職届を出すのか
具体的なパターンで見てみます。
物理的に通勤が難しい状況となる場合
学校への進学や留学、家族の引越しなど、物理的に通勤が不可能になる場合が該当します。これは、引き止めることは相手にとって不利益になってしまいますので、状況を良く聞いて、気持ちよく見送ってあげるのが良いでしょう。
ちょっと注意がいるのは、「家族が病気で看病しなければならない」という理由です。
これは、退職する時のウソの理由として定番だったりもするので内容の見極めは重要ですが、本当に看病しないといけない場合もあり、状況によっては退職せず休職させる方が良いこともあります。
ベトナムの場合、病院の看護システムが日本と違って、看護師さんは入院患者の24時間体制でのケアはしません。このため、一家のうち誰かが入院してしまう事態になると、その家族の誰かが病院に寝泊まりして病人のケアをしなければならないことになります。
社員の家族状況を良く把握した上で話を聞き、本人がまだ働きたいと思っている場合は、一旦休職扱いにして病人が退院してから、すぐに復職させてあげる様にすることを提案しています。
そうすることで、社員の収入が途絶える期間を最小限に留めることが出来るのと、看病が終わるまで会社は待っているよと伝えてあげることで社員も安心して看病に専念してもらうことができる様になります。
弊社でも、そうやって仕事に復帰してくれ、その後もしっかり働いてくれている社員が何人もいます。
仕事が面白く無い場合
仕事の指示の出し方などが原因になっている可能性もあるので、なぜ仕事が面白く感じれていないのか、相手の話を公平な視点でしっかりと聞く必要があります。指示の出し方や方針の出し方に問題がある場合は、その点を改善しなければなりません。
もし社員がまだ考え方が未熟で深い考えなしに幼稚な理由で不満を感じていると判断できる場合は、引き止めずに退職してもらう方がお互いにとって良いでしょう。
収入の額に満足していない場合
収入の額に満足していない場合は、社内の人事制度に問題がある可能性もあるので、真摯に相手の話を聞いて、もし人事制度の問題があると判断できれば、問題点の見直しを行う必要があります。
それをわかる形で示してあげることができれば、その経営者の姿勢をみて、社員が将来の希望を感じ取って残ってくれる可能性もあります。
反面、公平な視点で見ても本人の要望に会社が対応することはできない場合、去ってもらう方が本人にとっても良いと言えるでしょう。
職場の人間関係に問題がある場合
人間関係のトラブルも、組織人事の要素が多分に関連しますので、公平な視点でしっかり話を聞く必要があります。場合によっては、組織の配置換えをすることで問題を解決しなければならない場合もありますが、その様なケースでは、その後それぞれが伸び伸びと仕事をして成長してくれる可能性も大いにあります。
実際に弊社でも、組織配置を見直したあとで大きく成長し、現場リーダーとして活躍してくれている社員もいます。
性格が合わない、上司が気に入らない等は、組織に所属する以上、どの会社に行っても起こり得る問題です。話を良く聞いた上で、職場の関係とある程度割り切って考えるべき内容なのか、組織運用上で何らかの見直しが必要なのかは、経営者がしっかり話を聞いて判断する必要があります。
経営者自身の気持ちのあり方について
引き止めずに見送る方が良い、と頭では思っていても、実際には「やっぱり残って欲しかったなあ」と思わずにはいられないケースも実際には少なからずありますね。
そう思ってしまいそうになる時、私は次の様に考えています。
基本的には「今がベストメンバー!」と信じてやっているけれど、人が入れ替わって新しい社員と入れ替わり、その結果、新しく良い人材に出会える可能性だって、十分にあるはずで、そして実際にそういうケースもたくさんあるのです。
もう少し時間が経って過去を振り返った時、「あの時はベストメンバーと思ってたけど、そこに固執しすぎていたら、今頑張って成果を出してくれているあの社員とは巡り合えてなかったんだなぁ」と思えるはずです。
また、惜しくも退職してしまった社員がその後に一念発起してすごく頑張って仕事に取り組み、経済的にも大成功しているケースを目の当たりにすることもありました。そんな時は、「この子は、あの時に退職して本当に良かったなあ」と心から思います。
人の縁とは不思議なもので、いつ誰が、どの様な形で開花するのかは読みきれません。
そんな自分自身も、これまで転職をして今の場所に立っています。
退職届を持ってきた社員には、冷静な気持ちで社員の気持ちにしっかりと向き合ってあげたい、
その先に歩む道が別々になったとしても、新天地で頑張る元社員を全力で応援できる自分自身でありたい、そして、次に会った時にお互いが笑顔で「久しぶり!元気にしている?」と肩を叩きあって再会を喜べる関係でありたいものです。
今回書きたかったことは、以上です。
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